2023.8.9
政府は2050年のカーボンニュートラル、即ち二酸化炭素排出量を実質ゼロにするとの方針を打ち立てていますので、この度はそれに対応するための、再生エネルギー確保を含めた5本の法律を束ねた一括改正です。具体的には、下記5本の改正となりました。
- 電気事業法
- 再生エネ特措法
- 原子力基本法
- 原子炉等規制法
- 再処理法
今回の法改正の目玉は、何と言っても原発稼動期間において、
- 最長60年を超えることを可能にした
- 原発の新増設を認めた
この2点です。
12年前の福島第一原発事故を受け、政府は原発の運転期間を原則40年、例外として最長60年としていました。それをこの度、原子力規制委員会による法定点検の期間は控除できるとしました。このため60年超が可能となったのです。併せて、新増設は原則認めないとしていたのを方針転換しました。
これは、昨年8月24日に岸田首相が、唐突に検討を指示したことを受けたものです。すぐに第2回GX実行委員会が開催されました。同年12月22日には、第5回実行委員会が開催され、この度の方針決定がされました。その際、2030年には原発による電力供給シェアを20~22%にするとしたのです。
また、原子力小委員会は昨年11月8日に開催され、原子力政策の今後の方針が検討されました。その委員会は21名で構成され、原発推進に否定的な委員は僅か2名しかいなかったのです。
ところで、2021年10月に策定された、第6次エネルギー基本計画には、原発における運転期間延長や新増設については、一切触れられていなかったのです。
ということは、原子力政策は政治的な思惑の下に、政府の審議会を御用学者で固めた上で、隠れ蓑的役割を果たしたと言えるでしょう。しかも、その間パブリックコメントは1回のみ。つまり、国民的議論は殆ど行われず、メディアも論調を封印して、世論喚起を押さえ込んだのです。
結局、今年2月10日には、GX電源法案が閣議決定されたのを受け、国会でスピード審議。自公与党に維新と国民民主の賛成多数により、去る5月31日に成立したのでした。
一方、原発は低コストだと言われますが、維持管理費がここ10年間で、各電力会社が合計17兆円を積み立てています。しかもこの間全く稼動していない原発においても、この内11兆7千億円が含まれています。これらは総括原価方式により、全て地域独占の電力会社による電気代に加算されており、各社は損をしないシステムなのです。最終的に、これらは消費者が支払わされていることとなります。
また、原発による22%の電源シェアを確保するとなりますと、国内に30基を立地する必要があり、たった1箇所の大事故で、全基がストップする可能性があり、そうなりますと、原発に電源を頼るほど、リスクが大きくなるのです。
実際、福島第一原発事故により、当時我が国にあった全54基をストップさせました。それでも電力会社同士の電力融通で以て、夏の全電力供給を原発ゼロで賄うことができたのです。
しかも、広範囲に亘る原発周辺自治体による避難計画は完璧なものはなく、近隣の原発が同時に被害を受けた場合は、それら避難計画は、避難ルートが重複するため全く機能しません。12年前の惨劇以降、帰還困難区域を指定され、未だに故郷に住めない人々が最低3万人はいると言われているのを忘れてはなりません。
更に、原発は都市圏には立地してはならないとされており、それは原発が安全でないことの裏返しです。都内に立地すれば、送電線網の建設コストが下がるのは当然ですが、例えば東京電力が福島県や新潟県に原発を建設し、そこから都内へ電力供給している実態を見れば、いざとなったら、僻地は切り捨てるとの方針が見え見えなのです。勿論、首都圏に立地すれば、そこに原爆を投下されると一網打尽となります。原発の厳しい立地条件は、原発が攻撃されたら極めてもろいものであることの証左なのです。
実は、12年前の教訓を受け政府は、原子力推進の資源エネルギー庁と原子力を規制する原子力安全・保安庁が同じ経産省傘下にあったことを踏まえ、この利用と規制を分離しました。原発事故の翌2012年に、原子力規制委員会設置法を制定したのはこのためです。これは国家行政組織法に基づく第3者機関として位置付け、同委員会は環境省所管にし、その事務局を原子力規制庁としたのです。
ところがこの度の法改正において、運転期間延長の許認可権を原子炉等規制法から、経産省所管の電気事業法に置き換え、その権限を経産相としてしまいました。つまり、運転延長を原子力を推進する省庁が担うこととなって、政治的に原発を安易に延長させることができることになります。
福島の大惨事を国民は忘れてはいないはずです。今後は宇宙にあまねく存在するフリーエネルギーの実用化を推進し、送電線網不要で安価な電力供給体制へ舵を切るべきなのです。