街頭演説集

第189回 議会会派の意義

一人会派でこそ改革は進む!地方議会の実態と構図

Facebook 2019.5.20

 本日は189回目の街頭演説。テーマは議会会派の存在意義についてです。

 丁度この日は、呉市議会議員選挙が終わり、初めての議会招集日、いわゆる臨時会です。これは、先ず最初に新しい議員構成における正副議長を決めることから始まります。
 その議長を選出するのは議員による選挙です。従いまして、議長に就任するためには、議員の賛成票を獲得する必要があり、そのための基礎票になるのが「会派」です。会派とは同じような考えを持つ議員のグループのことを指し、政党がそのまま会派になったり、保守系無所属では複数の会派が存在します。自民党で総裁を選ぶ際、派閥が重要な意味を持つのと同様です。
 その保守系会派は呉市で3つあり、選挙前は7名、7名、6名と拮抗していました。ところが、この度の選挙で7名の会派は各々引退者が出ため6名に減じ、6名だった会派は新人2名を獲得したことで8名となり、その立場が逆転したのです。
 実は、去る4月21日の投票結果を踏まえ、既に会派の獲得合戦が水面下で行われていたことになります。即ち、複数の会派がタッグを組むことで、議長と副議長を分け合うという構図は日常茶飯に行われており、監査ポストまでそれを拡げる場合さえある訳です。市民にとってはどうでもいいことが、議員にとっては最も感心の高いことかも知れません。
 ということは、大きい会派に所属しなければ、当選回数を重ねても正副議長のポストは勝ち取れないことになります。

 かくいう私は、平成24年2月に当時の最大会派を離脱し、一匹狼となりました。その際、「自然共生党」という一人会派を結成したのです。
 これでは正副議長どころか、正副委員長のポストすら獲得することはできません。私は最大会派に所属していた際は、建設委員長、教育経済委員長、更には監査までさせて頂きましたが、それらポストへの未練はみじんもありません。
 では、「一人会派では議会において発言力は弱いし、改革はできないのではないか」と、よく多くの支持者から疑問をぶつけられることがあります。答は「ノー」です。一人会派だからこそ、市長提案に対し是々非々の立場で意見を主張できますし、実際一人であるが故に改革したことはいくつかあるのです。その実例をお知らせ致しましょう。

 先ず1番に挙げるのが、平成25年6月定例会でのできごとです。この議会では、国の要請を受けた呉市が、東日本大震災復興財源を確保するため、国家公務員に準じて呉市職員の給与と期末・勤勉手当を期間限定で各々3%ずつカットする条例を提出しました。職員給与等特例条例の制定です。条例は議会で審査され、可決された場合に初めて施行されますので、これは全会一致で可決しました。
 ところが、問題は議員報酬です。「職員の給与等はカットしても、議員報酬は聖域なのか」と、市民から疑問の声が上がるのは火を見るよりも明らかなため、会派の代表が集まる代表者会議で議論を重ねた結果、議長裁定に委ねることになりました。それを受け、当時の議長が「職員と同じ3%を同一期間カットする」と表明しました。これに各会派が従うとしたことで、本会議採決直前の議会運営委員会では、その条例案の賛否が最終確認されたのです。
 その時、全会一致でこの議員報酬等特例条例を可決することになると踏んでいた大方の議員予想を裏切り、谷本議員だけが本条例案に反対することが判明したのです。反対するにはそれなりの理由を市民に示すのが常道で、当然本会議場で谷本議員が反対討論することが、議会事務局より説明されました。
 何故私一人が反対の意志を表明したのかと申しますと、実はこの条例には、報酬はカットしても、期末・勤勉手当、いわゆるボーナスはカットするようにしていなかったからです。「どうせ世間は気付かないだろう」とたかを括っていたのが、私が反対討論をすれば、このことが白日の下にさらされ、マスコミもこのことをクローズアップして採り上げることは目に見えています。そうなりますと、世間は谷本議員に味方するのは明かで、私が英雄になってしまう可能性がありました。
 それを恐れた某議員が私に対し、「全会一致が理想だが、それがどうしても困難というなら、採決時に退席を願えないか」と打診されました。私は即座に退席を拒否。この手法は、自身の賛否を曖昧にする採決の際の一手段ではありますが、私が最も嫌うところです。
 それが無理だと判った時点で某議員は、「それではボーナスも職員同様の率でカットするなら賛成するのか?」と聞いて来られました。私は即座に「それなら反対する理由はなくなるので、賛成に回る」と返し、一旦各会派に持ち帰って相談し、再度招集をかけることになったのです。
 その結果は、報酬と合わせボーナスも3%カットする条文に書き変えられました。議会事務局が議案書をワープロで修正して、本会議場に配布する時間を合わせ、10時からの本会議開会を40分遅らせたのです。翌日の新聞は、その結果事実が数行程度の内容で粛々報じられたのみで、その水面下での動きは正に闇に葬られたのです。
 この大逆転劇は、私が会派に所属していたら到底叶わなかった離れ業でしょう。

 もう一つの実例は、平成29年3月定例会でのことでした。新年度予算の議会費に、議会広報紙の製作費約900万円を初めて計上することになったのです。これまでの議会運営委員会で何度も議論して来ましたが、

  1. 既存の市政だよりには年4回開催される定例会での一般質問の内容が掲載されている
  2. 議会の詳細は議会ホームページで公開済みなので、それを視聴すればこと足りる③読者が少ないので費用対効果に乏しい

との理由で、時期尚早との結論が出ていたのです。
 それが、平成28年度に呉市が中核市の仲間入りしたことで、議長が中核市議長会に出席した際、議会広報紙を発行していない市は殆どなかったことが判明したことから、急遽この議論が再燃したのでした。
 結論は議長の意向を汲んで、年4回議会広報紙を発行することに決まり、議会として財政当局に予算要求し、認められたのです。
 ここまでは順調でした。ところが総論は賛成でしたが、各論で各会派の思惑が交錯し、話が混沌として来たのです。即ち、議員活動の花形である本会議場での一般質問の内容を掲載することは当然なるも、その際に発言議員の氏名を掲載しないというのです。これには予想はしておりましたが、やはり奇異です。他都市の議会で発言議員の氏名が掲載されていない広報紙は皆無だからです。これではこれまでの市政だよりと差異が殆どありません。市政だよりにも名前を載せるべきとの一人会派議員の意見も過去ありましたが、会派名だけ掲載する改革こそなされたものの、未だ氏名は掲載していなかったからです。
 私は、会派名と氏名は当然として、更に顔写真も掲載するべきと主張しました。他都市の議会広報紙の多くは議員の顔写真も掲載していたからです。一般に広報紙は、写真や図柄を豊富に掲載すること、いわゆるビジュアル性が読者に問われます。
 そこで私は、「こんなことなら、議会広報紙発行そのものに意味がない」として、予算そのものに反対する意志を伝えました。それに他の一人会派議員も同調した結果、会派対一人会派の対立構図が鮮明になったのです。
 会派所属議員の主張はこうです。「定例会毎に一般質問している一人会派議員は毎号氏名が掲載されるが、会派議員の一般質問は会派を代表して行う代表質問なので、定例会で毎回一般質問をする訳ではなく、従って広報紙に毎号氏名が載らないため不公平である」というものでした。
 これに対しては、「会派所属議員であっても、代表質問とは別に個人質問が認められているのだから、定例会毎に一般質問したかったら門戸は開かれており、公平性は担保されている」と一人会派議員は異口同音に主張致しました。つまり、毎号氏名を掲載して欲しければ、定例会毎に勉強して質問すればいいというのです。それを選択するしないは、会派所属議員の裁量に委ねられており、そこまでは関知できません。
 私が本予算案に反対すれば、他の一人会派所属議員も同調し、且つ私が本会議場で反対討論することは見えています。そうなりますと、私の主張をマスコミが報じる可能性を捨て切れず、私が英雄になる訳です。つまり、私の主張は、議員ボーナスカットと同様、大方の市民の意向を汲んだものであるからにほかなりません。
 結局全会一致で予算を可決するために、妥協が図られました。

  1. 発言者の会派名と氏名は掲載する
  2. 顔写真は掲載しない
  3. 会派を代表する代表質問は2段組(半ページ)、一人会派の一般質問たる個人質問は1段組(1/4ページ)

の3点です。
 これは改革の一歩になると捉え、私を含む一人会派議員は賛成に転じました。即ち全会一致で予算は可決されたのです。後は読者たる市民が気付いて顔写真掲載を要望するとか、同じ文章スペースを求めるか否かにかかったと言えなくもありません。ただ残念ながら、市民からの指摘はないまま、今日に至っています。市政だよりの時もそうでした。市民で感心をお持ちの方が極めて少ないというのが実情でしょう。
 但し、私が一人会派であったからこそ、このような妥協まで持ち込むことができたのであって、会派に所属していたら、会派拘束がかけられますので、到底自由に発言ができなかったことは疑う余地がありません。
 このような実例でお解りのように、現状では悲しいかな、一人会派でこそ改革が進むというのが私の持論なのです。

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