街頭演説集

第258回 健康被害を増大させる農薬空中散布の推奨は誤った施策!

Facebook 2020.10.14

 去る10月12日は258回目の街頭演説。テーマは、ドローン柑橘防除実証実験についてです。
 呉市は平成30年度と令和元年度の2ヶ年に亘り、ドローンを駆使した柑橘だんだん畑への害虫駆除を目的とした農薬散布の実証実験を行いました。予算は各々140万円です。
 豊町の大長を中心に柑橘栽培農家の高齢化が進み、害虫駆除における手作業での農薬散布に係る労力を軽減するための試みです。
 1年目の実験を終え、2年目の予算提案時に議会から、「上空からの農薬散布では、葉の裏に農薬が行き渡らず効果があまり見込めないのではないか?」との懸念が示されました。そこで2年目においては、それに回答するべく、その視点に立脚した実験にしたというのです。因みにその決算額は130万円です。
 具体的には、

  1. 5月にアドマイヤーフロアブルという農薬を使用し、葉の裏側へ向けて浸透した結果、アザミウマの病気にかからなかった
  2. 6~7月にはジマンダイセン水和剤を撒いた結果、15~33%程度、葉の裏側にも農薬がかかった

その結果、「労力は通常の1/12で済み、これまでの手作業散布と効果は変わらなかった」と答弁して、実験は成功したとの立場を強調しました。
 今年度は予算を計上せず、いよいよ実践段階に来たといいます。即ち3回の実験経費を

  1. 事業者のボランティア
  2. 農協が負担
  3. 個人が負担

と3回行う予定とのことです。それも初年度は2.5a、2年目は10aでしたが、3年目の今年は80aに散布範囲を拡げるのだそうです。
 私は、「初めて予算を計上した際、費用対効果を見極めるとの説明があったが、それはどうなったのか?」と追求。「10a当たり、農薬代を含めての委託費は3千~5千円程度」と答弁はありましたが、結局、人役削減と新たに係る経費とを比較した費用対効果は明確に提示できないままでした。
 お金がかかることですから、農家が導入するかどうかは、別問題というのが私の見解です。当局は、導入に関しての私の質問に対し、3つの手法が考えられると答弁。即ち

  1. 農家の人がドローン資格を取り自ら操縦散布
  2. 農協がドローンを購入若しくはリースして、それを農家に貸し出す
  3. 事業者との委託契約を農家が締結し、委託料を支払う

結局①にしても②にしても、体重が200g以上あるドローンを農業者自らが操縦するのはにわかにはできませんので、③が現実的な手段と考えられます。ただ、もし多くの農家が③を採用すれば、ドローンの事業者が不足することも容易に予想されます。
 しかもドローンを購入すれば、近年価格は下がっているとは言っても100万円近くかかることもあり、農家にしても新たな設備投資が避けられませんし、農協が購入するにしても、農家が使用してくれなければ赤字に陥るリスクをかかえることになります。

 一方、問題はこれだけに止まりません。本質的には農薬散布を行政が推奨することそのものが間違っているのです。
 実は、松枯れ対策として松食い虫防除のためヘリコプターによる農薬空中散布が全国的に展開された時期があります。広島県もその例に漏れず、実施市町村に対してその経費の半額を補助する施策を平成15年度から採用したことで、呉市も予算を計上して実施しました。
 ところが、これが健康被害を及ぼすとの批判が上がり、県が18年度をもって補助制度を廃止したことに連動し、呉市も19年度からこれを断念しました。その後は伐倒駆除や地上散布に代えて今日に至っています。
 つまり、ヘリコプターが近代的技術を駆使したドローンに変貌しただけで、農薬空中散布の構図は全く変わっておりません。この二の舞になると、私は警告しました。当局は、「1.5mの低い場所から散布するので、拡散を抑止できる」と申し開きをしましたが、例えそうであっても、農薬が空中浮遊することには変わりはなく、農業従事者や近隣の方への健康被害は図り知れません。これは受動喫煙とそっくりです。
 農薬には発癌性があることが分かって来ているからです。政府は、農薬を承認する段階で、基準をクリアしていると豪語するでしょうが、そもそも残留農薬基準が世界一甘いのが我が国なのですから、到底説得力がありません。
 呉市は農薬の空中散布を前提として、貴重な税金を投入した訳ですから、それを推奨する立場になります。呉市が農薬を推奨すること、またそれを拡散させようとすることは、政策的に間違っていると言わざるを得ません。因みにこの予算は、新市長になってからの独自予算です。前政権時の施策を踏襲したものではないのです。

 ところで、農薬の普及の歴史を考察してみましょう。
 私の幼少期までは、畑には肥壺があり、人糞を発酵させ、肥料として活用していました。だから、肥えた土壌で取れる作物は栄養があり、美味しかったのです。
 その後、昭和30年代に石油化学コンビナートが林立し、その生成物から生じる廃棄物を化学肥料として活用、開発し、農協が農家に販売することで、労力縮減に寄与しました。しかしそれが仇になって土中の微生物や昆虫が死滅し土地がやせこけ、結果ひ弱な作物に害虫がつき、雑草が生い茂ることに対して農薬を撒いたため、益々農業が衰退して行ったのです。
 化学肥料も農薬も、アグリ企業の国際資本が入り込んでいます。つまり、安価な労働力の求めに応じて化学肥料が大量生産され、その副作用により、農薬を使用するのが当たり前の農業に転落してしまったのです。目先の便利さを追求する余り、自然を甘くみたことのツケが回って来たと言えましょう。近代農業における負の歴史の二の舞は絶対避けねばなりません。
 新市長は、千葉県いすみ市に代表されるような環境保全型農業に政策誘導し、そこに補助金を投入し、敢行農業から有機(ゆうき)農業への転換を勇気(ゆうき)を持って取り組むべきなのです。
 そうは言っても、農薬漬けになっている土壌を元の状態に復元するには、最低3年はかかります。その間の収穫は諦めるしかないので、現実的に無理と言われ、有機農法に転換する農家はほんの一握り、しかも小規模農家です。
 ところが我が国には、土壌改良と水を短期間で変える微生物を活性化させる民間技術が出ており、寧ろ東南アジア等で普及しつつあります。これを導入すれば、土壌は僅か1ヶ月で復元し、作物の稔り、即ち収穫量も増加しするといいます。実際、作物が全く育たない不毛の地を豊かな農地に変貌させた実績もあるのです。
 先ずは、この実績に謙虚に耳を傾ける姿勢(しせい)が呉市政(しせい)、ひいては全国の地方創生にとって最も重要であると考えます。

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