街頭演説集

第264回 種子主権を守れ!無農薬無化学肥料農業で気候変動解決を

Facebook 2020.11.25

 昨日11月24日は264回目の街頭演説。テーマは、種苗法改正の問題点についてです。
 去る11月19日、衆議院で前通常国会から継続審査になっていた種苗法改正案が与党多数により可決されました。僅か農林水産委員会で2日間のスピード審議です。因みに継続審査になった発端は、女優の柴咲コウさんがツイッターでこの問題点を指摘したことで波紋を拡げた経緯があります。
 その間我が呉市議会では、去る9月定例会で国に対し、種苗法改正案を慎重に審議することを要請した意見書を全会一致で採択したところです。しかしながら政府・与党の方針で、参議院も僅か2日間の委員会開催で今臨時国会中に可決する見通しです。
 そもそもこの法律は1998年に施行され、新たに品種登録した農作物の知的財産権を「育成者権」として保護することに根拠を与えたものです。つまりタネを購入した者による自家増殖を禁じているのです。但し農業者は例外であって、自家増殖を認めてはいますが、農家がそれを更に第3者に譲渡することは禁じています。つまり現行法は、開発した者と農業者の双方を守るためバランスを取ったものなのです。食料・農業植物遺伝資源条約においては「タネは農民のものである」との趣旨が謳われていることを受けた、絶妙の措置と言えましょう。
 ところが2016年、政府の諮問機関・規制改革推進会議農業ワーキンググループと未来投資会議の合同会議で種子の民間開放が提言されたのを機に、一気に法制化の動きが加速しました。先ず翌年17年4月に主要農作物種子法廃止法案が成立し、同年5月には農業競争力強化支援法が制定されたのです。
 前者は米、麦、大豆等の主要農作物の種子を守るべく国が果たす責務を放棄。このため、各都道府県への交付税措置の法的根拠がなくなりました。後者は各都道府県が品種開発した知見の民間開放を促すものです。そして集大成がこの度の種苗法改正案という訳で、いわゆる三点セットになっているのです。
 種苗法が改正されますと、農業者の自家増殖の権利が奪われ、品種登録者に対して許諾を得る必要があります。その許諾料負担がが農家に重くのしかかり、経営を圧迫する要因になることは明白です。

 では、何故農業者による反対運動が盛り上がっていないのでしょうか?勿論、メディアが殆ど報じていないことが挙げられます。加えて、政府は農業団体や農業者代表に対して説明会を行ったとしていますが、法改正の理由として国会議員に対しても欺瞞的な見解を述べ、騙していると考えられます。
 そこで、去る11月12日に招集された衆議院農林水産委員会では、民間知識人を招聘しての参考人質疑があり、日本の種子を守る会アドバイザーの印鑰(いんやく)智哉氏が鋭く指摘したのです。
 第一に農水省は、日本の品種が海外に流出するのを防ぐために法改正が必要と主張しています。これは、農業者を犯人として決めつけているように聞こえますが、その様な確たる証拠は存在ません。勿論、許可なく海外に持ち出すことは農業者を含み誰であっても罰せられますので、現行法で対応はできるのです。
 ただ、それを持ち出すことを取り押さえることは現実的に不可能に近いため、現行法であっても改正法であっても、効果は殆ど期待できません。それを取り締まろうとすれば、海外各国で生産農家が品種登録を行って保護するしかなく、国外法でしか守ることはできないのです。
 第二は、農家の自家増殖を認めていることが、民間業者の開発意欲を削ぎ、登録品種が増えない要因となっているとの農水省の説明です。過去年間千件程の品種登録がされて来ており、決して開発意欲減退には影響していないのです。
 それよりも、自家増殖を許諾制にして規制することで、農家の農業離れに歯止めがかからなくなり、農業人口が激減することに起因するタネのニーズが縮小することの方が、品種改良意欲の減退に繋がります。実際、近年我が国の新規登録件数は500件程度にまで激減し、韓国に抜かれてしまっているのです。
 第三は、農水省は登録品種は全体の1割しかないので、自家増殖が許諾制になったとしても、農家への影響は微々僅かであると説明しています。ところが実際は平均33%もあり、我が広島県では52%、農業県では更に高い比率となっているようです。
 しかも、アメリカでは他国からの品種登録だけでも全体の6割を占めており、農業競争力強化支援法により都道府県が知見を有償で売り渡すことになりますので、外国の農業大手企業が独占状態になる可能性を秘めているのです。或いは外国資本の日本企業も許諾制の魅力でどんどん参入して来るのは火を見るより明らかです。
 第四として、知的財産権保護は世界の潮流とし、我が国もUPOV(ユポフ)条約(植物新品種保護国際同盟条約)を批准してはいます。そうは言っても、食料・農業植物遺伝資源条約も批准をしており、世界的にみても農家の自家増殖を禁じているのはイスラエルのみとなっています。アメリカでは許諾制ではありますが、主食の麦は例外で、大規模農場を除いては許諾料は免除されており、事実上農家の自家増殖は認められているのです。
 第五は、許諾料はそんなに高額とはならないため、農家の負担は僅かであると農水省は説明しています。ところが法律に許諾料についての記載はなく、登録業者が自由に設定できることは明白です。農業資本が独占状態になればなるほど、小規模農家は足下を見られ、高い許諾料を請求されることは十分に考えられるのです。加えて、毎年高額のタネを登録業者から購入しなければならなくなり、農場が広い程、その負担は増幅して行きます。
 しかも、大手アグリ企業となりますと、農家に対し、企業グループで生産している化学肥料や農薬を使用するよう契約書に明記させられます。つまり、有機農業はできなくなるのです。
 自身で品種改良した有機農家は、逆にそのタネの権利が保護強化されるので、農家に対して売却収入が増え、ありがたいと言われる方が見受けられます。
 ところが、山田正彦元農水大臣が農水省官僚を問い詰めたところ、品種登録には数百万から数千万円かかるとの回答があったそうです。実は、登録手数料の他に新品種であることを証明する必要があり、その試験費用は全て登録者負担になることがその要因のようです。そうなりますと、家族農業者は到底そのようなことができず、改良新品種を企業に売却せざるを得なくなり、結局は大手資本に利権が集中することになるのです。
 この品種登録に係る経費については、法案説明にもありませんし、国会の質疑でも誰も触れていないようです。政府が閣議決定し、与党は予め賛成に回ることを決定してのスピード審議ですから、野党もこの件を見落としていると推察されます。野党やマスコミは、日本学術会議や桜を見る会の様な直接我が国の命運に無関係な案件の追求に固執していることもありましょう。これらは与党への揚げ足取り、即ち枝葉にしか過ぎないのです。
 元よりこの度の参考人質疑は、政府のアリバイづくりと言われても仕方ないでしょう。

 一方、種苗法改正により家族農業の崩壊を招き、農業は巨大資本に飲み込まれ有機農業が益々やり難くなると推察されます。これはTPP(環太平洋連携協定)、この度我が国もスピード加盟署名したRCEP(地域的な包括連携協定)の影響も手伝って、食料自給率の低下を招き、食糧安全保障が成り立たなくなり、海外からの兵糧攻めに屈することになりかねません。
 そもそも戦時中の爆弾製造技術を化学肥料製造に転嫁したことで、有機栽培が姿を消しました。本来作物は、光合成により作った炭水化物の4割を根や菌根菌糸を通じて土中に供給し、微生物を活性化させていました。ところが化学肥料によりその必要がなくなり、炭水化物を自身の成長に全て使うようになったことで、収穫量が一時的に増えたのです。ところが、土中に炭水化物が供給されなくなったことで、微生物が死に堪え、病原菌に冒され易い弱体化した作物になり、害虫にもやられるようになりました。そこで除草剤や防虫剤という農薬を新たに開発して、作物に撒くようになってしまったのです。
 このことにより、それを食する人類も病気がちになってしまい、医療費や介護費が膨らみ続けているのです。
 また、化学肥料により土中のネットワークを形成していた菌根菌糸が死滅し、スポンジ状態だった保湿性が高く柔らかい土が消滅して行きました。コンクリートの都市化と共に農村地帯でも水分を土が吸収しなくなり、集中豪雨に弱くなった要因の一つです。世界の土壌はあと60年で消失してしまうと土壌学者が指摘しています。実際既に1/3が消失しているといいます。
 ということは、無農薬無化学肥料での農法を推進すれば、二酸化炭素を光合成により土中に還元、微生物が活性化し、気候変動の抑止対策になるというのです。つまり、「アグロエコロジー(生態系を守る農業)」への転換が望まれているのです。世界一農作物の残留農薬基準が甘い我が国は、それから完全に取り残されていると言えます。
 種子法はそれに変わって、全国23箇所に県単位で種子条例を制定しました。全国3箇所しかない農業ジーンバンクを有する我が広島県も、呉市議会からの昨年9月における県提出意見書もあって、今年6月30日に県議会で制定に漕ぎ着けました。今後は各県が担っていた在来種を守る運動が必要です。固定種(在来種)は野生ですから生命力が強いため、改良品種と交配しつつ維持する役目があるのです。これがジーンバンクの使命でもあります。広島県では1万9千種も冷凍保存しています。印鑰氏は地産地消となる「ローカルフード宣言」を提唱しています。学校給食の有機食材化もその後押しになるのです。
 「食糧主権」とは食べたい時に食べたいものを作るという考え方ですが、その前提として「種子主権」が必要不可欠なのです。
 種苗法が改悪されますと、タネは農家から企業に所有権が移るのと同義です。これは、農家は大資本を背景としたアグリ企業の小作人に成り下がることを意味します。つまり、種子主権が農家や消費者から剥奪されることになるのです。多くの方に気付いて頂きたく、切に念願しています。

【種苗法】印鑰智哉・参考人「拙速な審議をしないよう」

https://youtu.be/QDzgNKqbqbU

「種子から見える未来と平和」

https://youtu.be/v30E1isXsoA
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