2023.6.27
旅館業法というのは、第5条において、宿泊客に対し原則宿泊を拒否してはいけないとしています。例外として、
- 明らかに伝染病にかかっていると認められる
- 賭博や風紀を乱す怖れ
- 客室に余裕がない時や都道府県条例で定める
場合は、例外的に拒否できるとされていました。
それを、昨年7月14日に、厚労省の諮問機関「旅館業法の見直しに係る検討会」が、感染症対策に応じない者への宿泊拒否を可能にするよう答申したのです。これは旅館業界の意向を踏まえた内容でした。
これを受け我が自然共生党は、すぐさま9月1日より、この改正案に反対の署名募集をスタートさせました。また10月21日には、衆参の各々のハンセン病関連議員懇談会が国会内で合同総会を開き、関係団体も招集、厚労省に説明を求めた上で、反対の意思統一を図ったのです。
その直前の10月7日には、改正法案を閣議決定した上で、同日秋の臨時国会に法案が提出されました。但し、議連による各党への根回しもあって、継続審査となったのです。
この間、日弁連も会長声明を発表。
- 宿泊業者の判断に委ねられてしまう
- 健康状況のチェックはプライバシー侵害になる
- エスカレートした結果差別に繋がる
として、憲法第13条の幸福追求権や第22条の移動の自由に違反するとして、反対を表明しました。
そして年明け1月23日に招集された通常国会に法案が再提出されたことを受け、私は発起人を代表として5月11日に厚労省に乗り込み、法案の撤回を求めたのでした。
さて、これらが功を奏し、去る5月26日、衆院厚生労働委員会において法案の修正が図られ、これが可決されました。翌27日に衆院可決、6月7日での参院可決によって、この修正を加えた上で成立したのです。
修正内容は、第5条においての宿泊拒否可能事例として、
- 明らかに伝染病にかかっていると認められる者の代わりに特定感染症患者とする
- 省令で定めるところの阻害行為を繰り返すを追加
- 感染症対策に応じない者を削除
の3点です。
①の特定感染症とは、この度の改正で第2条に第6項として追加されたもので、
- 2類以上の感染症
- 新型インフルエンザ等感染症
- 指定感染症
- 新感染症
と定義付けしました。無症状であってもPCRや抗原検査が陽性であれば、感染症法第8条第3項が適用され、患者とみなされますので、宿泊拒否が可能になります。つまり、現行法より宿泊拒否範囲が拡大されたと言えます。
そして②が問題で、無症状者に感染症対策を求める、例えばマスクを着ける着けないで揉め、反復継続を繰り返し、宿泊者が阻害行為をしたと宿泊業者が判断すれば、警察を呼び、宿泊を拒否される可能性が極めて高くなります。
そこで、議連を納得させる再修正案として、第5条に第2項を新設したのです。これは「みだりに宿泊拒否をしてはならない」という条項で、これだけ見れば進歩です。ところが具体的には、「宿泊業者は感染症対策を求める場合の理由を丁寧に説明することができる」と書かれており、できる規程となっているのです。つまり、面倒な説明はしなくてもいいと解釈できます。本来なら義務規定にするべきでしょう。
加えて第5条の2を追加し、厚労相は営業者が適切に対応するための指針を定めることとしました。
つまり、修正案は一見かなり譲歩を勝ち取ったように見えて、その実、旅館業界の思惑に沿ったままの内容で、巧妙にごまかしていることが解ります。
また、既存の改正案では、第3条の5を追加。第1項で、営業者に宿泊サービス向上の努力義務を課しつつ、第2項では、営業者に対し従業者への研修を努力義務としました。この新設条項を以て厚労省は、営業者による横暴な宿泊拒否への歯止めになると説明していました。
ところが、財政力のない旅館では、とても研修を受けさせることは困難ですし、ホテルの代表クラスが研修を受講しても、末端従業員まで内容が浸透するはずもありません。つまり、営業者による正当行為への担保には決してなり得ないのです。
そして問題は、改正案において第4条の2を追加したことです。これは第1項において、「営業者は宿泊者に対し、感染症対策の協力を求めることができる」としています。即ち、パンデミック下で特定感染症がまん延している場合に限り、検温、マスク着用、手指消毒、隔離等の要請を受けるということです。これは、去る5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられる以前と同様です。その際第4項に、「宿泊者は正当な理由がない限り、協力に応じなければならない」と義務規定が定められているではありませんか!本来なら、この改正案条項をもセットで削除しておかねばならなかったのです。これは各政党が厚労省の巧みな罠に嵌まったと言われても仕方ないでしょう。
結局、この義務を怠った宿泊客に対し、宿泊拒否はできない代わりに、言い合いの反復継続を繰り返し、阻害行為を行ったとレッテルを貼られ、改正法第5条第3号の新設条項により、宿泊を拒否されるということなのです。これは私が、航空機内でマスクを着用しなかったことで警察官を呼ばれ、結果的に強制降機させられたことと同じことが必ず起きるでしょう。厚労省は実を取ったのです。
一方、既存条項でもあったのですが、第5条第1項第4号には、都道府県条例で定める場合は、宿泊拒否を可能としています。
そこで、新設第4条の2第4項の「協力に応じる義務」を怠ったことへのペナルティとして、都道府県条例を改正し、宿泊拒否を可能にすることへの懸念が新たに生起しました。この点を私は、厚労省生活衛生課に質問しました。同省の見解としては、「今回の旅館業法改正では不可なので、条例化はできない」ということでした。では、「改正法のどの条項に違反しているのか?新設第4条の2があるので、違反条例とはならないのではないか?」と追求したところ、まだ回答が来ていない状況です。
この解釈は、今後の課題と言えましょう。いずれにしても、この度の同法改正案の修正可決は、決して手放しでは喜べず、差別はなくならないものと考えています。我が自然共生党と致しましては、撤回に向けた国民啓発を展開して参る所存です。