2023.12.11
去る10月、上脇博之(ひろし)神戸学院大学教授が刑事告発したことでクローズアップしたこの問題。
自民党5派閥、いわゆる安倍派、二階派、岸田派、茂木派、麻生派各派が主催する政治資金パーティにおいて、収入をと支出で未記載の疑いがあったり、2018年度から2021年度までの4年間で数億円規模のキックバックが、各所属国会議員になされたという疑惑です。
キックバックというのは、国民の目に触れない裏金のことで、政治工作や買収行為に使われる使途不明の財源となり得ます。国民の不信感を増幅する源流となる訳です。
特に安倍派では、所属各議員にノルマが課され、それを超過した1億円以上とみられるお金が派閥から各議員に環流。その際、安倍派の支出項目と、キックバックを受けた議員の政治団体に収入として記載がないというのです。ということは、その金額は裏金処理した可能性が極めて高いことになります。
先ず、安倍派の座長である塩谷立(りゅう)衆議院議員(元文科相)は、去る11月30日、記者団の取材に対し、キックバックを認めるような発言。それを即日撤回した経緯があります。
その後、安倍派の前々事務総長・松野博一官房長官、前会長・西村康稔経産相、現会長・高木毅自民党国対委員長、萩生田光一自民党政調会長、世耕弘成参院幹事長と、安倍派5人衆が次々キックバックを受けていた疑惑が浮上。塩谷立氏自身も疑惑の渦中に巻き込まれました。それ以外の議員も含め、安倍派には少なくとも10名はいると言われ、現在、東京地検特捜部が事情を聴取しています。
勿論、二階派を含めた他派閥にも広がる可能性があります。実は政治資金パーティーは、自民党や野党、各議員の政治団体毎に開催しており、企業や団体から資金を集めるための格好の場となっているのです。
そもそも、政治とカネの問題は、近年では、1988年に発覚したリクルート事件が有名です。これは、リクルート社の系列不動産会社・リクルートコスモスの未公開株を賄賂として、大物政治家や官僚にインサイダー譲渡したのでした。また、1992年には、東京佐川急便事件が勃発しました。これは同社が、金丸信自民党副総裁に対し5億円の闇献金を行ったことが発覚。逮捕された金丸氏は、略式刑で僅か5万円の罰金でしたが、これが世論の反発を招き、議員辞職に追い込まれ、失脚したのでした。
直接この事件が引き金となって、政治資金規正法が改正されました。これは、企業・団体と政治家のカネによる癒着を断ち切るとの名目だったのです。即ち、これまで許されていた企業・団体による政治家個人の政治団体への献金が禁止されたのです。それを穴埋めするために、政党助成法を成立させました。5名以上の国会議員を有する政党、若しくは、直近の国政選挙で有効投票の2%以上を得票した政党が助成対象です。国会議員の人数と得票率によって、莫大なお金が税金から政党に交付されることとなったのです。
ところが、ここに大きな穴がありました。その第一が、政党の支部には引き続き企業・団体からの献金が許されたのです。従いまして、政治家個人の政治団体ではなく、当該政治家が支部長を務める、例えば自民党選挙区支部であれば、問題がなかったのです。これでは税金から交付することに全く意味がなく、二重取りになったのです。
第二が政治資金パーティーでした。これはパーティー券を企業・団体に購入してもらえば、献金扱いにならないのです。つまり相変わらず、政治家個人の政治団体がパーティーを主催して、企業・団体からお金を徴収する道は、そのまま残されたという訳です。国民への目くらましとなるザル法と言えましょう。
更にこの政治資金パーティーの収入は、選挙管理委員会への報告が義務付けられていますが、過少申告しても、全くチェック機能は働かないため、これも裏金作りの温床になっていたのです。自民党に限らず多くの政治家がこれに手を染めていることが予想され、今回の派閥からの環流を契機に、裏金作り体質全てにメスを入れて欲しいものです。
一方、昨年に発覚した、千葉5区選出・薗浦健太郎自民党代議士による、政治資金パーティー収入の過少申告。これは公設第一秘書や会計責任者と口裏を合わせ、差額をプールし、裏金工作を行っていたものです。これを受け昨年12月、彼は離党し、議員辞職に追い込まれたのです。代議士本人が了承していたことを認め、略式刑で100万円の罰金、3年間の公民権停止を課されました。
この度の例で言えば、その時々の安倍派事務総長が、「自分は会計を任されていないので、分からない」とか「現在調査中」として逃げの答弁をしています。会計担当者が自らの判断で、過少申告や未記載等の経理操作をすることはあり得ません。全て、派閥の長、それから政治家個人の政治資金パーティーであれば、当該政治家の判断に基づくものなのです。
従いまして、トカゲの尻尾切りは絶対許せません。本命である国会議員を地検は起訴し、一網打尽にすべきなのです。
この度世論の反発を受け岸田首相は、松野官房長官を初めとする安倍派5人衆の政府や党役職の解任、安倍派前議員の政務三役交代、内閣改造等の選択に追い詰められています。いずれにしても、このまま総辞職する可能性はあるものの、死に体での解散権行使はなさそうです。