街頭演説集

第155回 治水ダムの緊急放流

ダムの緊急放流による床上浸水は人災ではないのか!?

Facebook 2018.9.5

 去る9月3日は、155回目の街頭演説。テーマは治水ダムの緊急放流についてです。

 この度の西日本豪雨災害により、呉市にある野呂川ダムが決壊することを防ぐため、管理者である広島県は緊急放流、即ち「異常洪水時防災操作」を行いました。それにより、野呂川下流域である安浦駅を中心とした58ha、760戸が浸水被害を受けたのです。
 この地域は元々農地だったのを、呉市に合併する前の安浦町時代から安浦駅北区画整理事業を実施したエリアが含まれています。高齢者によると、昔もこの低地部一帯が浸水したことがあり、当時は農地だったので、土が水をある程度吸収しました。今回区画整理した所は排水機能が働かず、ひどい所は1mの床上浸水、そしてその後5日間も水が引かなかったといいます。勿論この地域は断水にも見舞われました。
 呉市としても、区画整理事業の排水計画を検証し、見直すことも必要となるかも知れません。実際過去岡山県内で、区画整理事業区域の排水機能が十分働かず浸水し、問題が表面化した自治体があるようです。
 特に安浦北土地区画整理事業区域においては、近年呉市有地から分譲契約を結んで土地を購入し、ローンを組んで家を新築したばかりの方は、再建費用が嵩み、大変なご苦労があるものと察します。

 さて治水ダムは、上流から流れて来る水をダムに貯め置くことで下流域の水位を維持し、河川決壊や洪水を防ぐ治水機能があります。この度は時間最大雨量が65mm、一日最大雨量が396mmになり、満杯は時間の問題でした。ダムが決壊すれば、施設に損傷を及ぼすこともあって、県のマニュアルで緊急放流をすることになっています。
 但しこの場合、流入量と放流量を等しくするよう定めているのです。これはダムの治水機能がゼロになることを意味しており、県は去る7月6日21:40に緊急放流を決定し、県から事前通報を受けた呉市が、その直前の21:05に避難指示を出しました。その僅か2時間45分後に緊急放流に踏み切ったのです。
 ところが、その安定放流最大値である毎秒50tに対し、実際はその平常時の3.6倍にもなる178tを放流していたことが後に判明。しかも流入量と放流量を等しくするというマニュアルが一時8時間に亘って逆転していたことが判ったのです。つまり、現場のダム管理事務所がマニュアル違反を犯していたことになります。このことについて県は、当時は電話やイントラネット回線が不通になり、防災無線のみが本庁と現場事務所との連絡手段だったため、錯誤が生じたと説明しているようですが、理屈が合っていません。
 その背景には、この様な放流を実施しなければ、激しい豪雨によるダムの決壊を防ぐことはできなかったし、もしそうなれば、より多大な浸水被害をもたらしたはずなので、仕方がない措置だった、という本音がちらついています。
 しかし、安定放流最大値を大幅に超えることで、ダムの治水機能が失われるどころか、マイナス機能、即ち逆効果になる訳で、このことはダム管理事務所や県は当然知り尽くしていた訳です。このことが天災ではなく人災である可能性が極めて高い理由です。実際、同様の事例で、過去損害賠償請求訴訟が起こされています。

 実は、広島県での緊急放流は13年前に続き2度目となります。ならば前回の教訓を踏まえ、対応マニュアルに記述を追加しておく必要があったのです。山口県はやはり、13年前の台風で緊急放流による浸水被害が出たことを教訓として、この度は気象情報を基に、事前放流を行った結果、河川決壊による浸水を免れたということです。
 事前放流とは、流入量より少ない放水量を徐々に行っていくことで、治水機能をプラスの状態を保ちつつ、事前に貯水量を大幅に減じることで、豪雨時での緊急放流を回避するものです。
 当然国は、全国のダム管理者に対して、事前放流をマニュアル化して通達を出しておくべきだったでしょう。この度の豪雨災害では、全国で8箇所のダムを緊急放流したのです。広島県では、ゲート式による野呂川ダムの他に、自然放流方式による東広島市にある椋梨ダムと福富ダムにおいても、多量の貯水を放流したことが後ほど判明致しました。
 今後広島県としては、決壊した中畑川護岸の復旧工事は勿論のこと、緊急放流に係るマニュアルを改正すると思われます。既に西日本豪雨災害を受けて有識者検討会が去る8月9日に起ち上がり、初会合が持たれました。その際、この度の緊急放流等については、特化した上できちっと検証を行い、事前放流を中心とした対策を盛り込んで欲しいと願っています。

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