街頭演説集

第172回 旧交通局の個人情報漏洩事件

旧呉市交通局職員の個人情報漏洩事件を総括!

Facebook 2019.1.5

 1月4日は、仕事始めに合わせた本年のスタートとなる街頭演説。通算172回目を数え、旧呉市交通局職員の個人情報漏洩事件をテーマに考察してみます。

 これは、旧呉市交通局を平成24年度から広島電鉄(株)に民間移譲する際に起こった事件です。当時中国ジェイアールバス(株)との公募競争に打ち勝った広島電鉄は、交通局職員における入社希望者の実地試験を免除する代わりに、人事考課等の個人情報提出を呉市に求めたことが発端です。
 当時は民間移譲を最優先するため、ある意味では広電に足下を見られ、言い値になっていた感は否めません。そこで呉市は、

  1. バス事業をそっくり民営化するのであるから、事業承継となり、情報提供は問題ない
  2. 実地試験免除という特典があるので、目的外利用とはならない

との2点から呉市個人情報保護条例には違反しないと踏んでいました。そこで個人情報を提供した結果、広電の評価が低かった職員は、広電を受験したもののこれが原因で不合格とされたのです。
 確かに当時の呉市交通局は、共産党系労働組合が深く勢力を浸透させ、企業管理者を批判する風潮が蔓延していました。民営化議論がくすぶり出して以降、バス停での待ち客を敢えてスルーして通過し、故意に乗車拒否をした運転士を懲戒処分したこともありました。このような状況下で、広電としては入社の際、円満経営を優先するあまり、人材を分別する必要があったのは解らぬでもありません。

 このことが原因となって、民間移譲後、先ず3名の旧交通局職員が民事提訴しました。理由は、呉市個人情報保護条例第10条第1項にある、個人情報の目的外使用に当たるというものでした。これは第一審で呉市の主張が受け入れられ、呉市勝訴となりましたが、原告控訴を受けた第二審では呉市が逆転敗訴。結局第三審で原告の主張が認められ、平成26年8月6日に呉市敗訴が言い渡されました。即ち、原告1人につき慰謝料と弁護士費用の33万円に加え、遅延損害金の支払いを命じられたのです。
 但し、原告3名中2名においては個人情報漏洩がなかったと認定され、1名のみが勝訴しました。これは他の2名は事務職で、運転の実地試験が不要だったことから個人情報の提供をしなかったのではないかと推察しています。
 呉市が逆転敗訴となった理由として、

  1. 交通局を一旦退職して、新たに広電の入社試験を受けるのであるから、企業の事業承継には当たらない
  2. 他社への情報提供は、条例の例外条項である生命の危険が及ぶ場合に該当せず、目的外使用になる

との見解だったと思われます。
 この審理の途中、第2次訴訟が3名の旧交通局職員から提起されました。第1次訴訟で原告が二審逆転勝訴したことが背景にあると推察しています。これは第1次訴訟の結審結果を踏まえ、裁判所から和解勧告が出され、双方が受け入れました。和解金として、呉市が原告1名に付き33万円を支払うというものです。第1次訴訟と支払金額が同額ということは、事実上の呉市敗訴と言っても過言ではありません。
 この次は第3次訴訟です。これは9名による提訴と直後の1名による提訴事件を統合しました。
 この第一審では呉市が敗訴、第二審では呉市が逆転勝訴したのです。過去の訴訟で呉市が敗訴若しくは和解となり、事実上の敗訴であったにも関わらず逆転した理由はこうです。原告の提訴理由は、これまでと同様呉市個人情報保護条例違反という不法行為でした。ところがこの場合の損害賠償請求権は消滅時効期間が3年しかなく、訴えた時期は既に3年が経過し、請求権が消滅しているという、呉市の主張が認められたことによります。
 そこで争点は、時効時期を算定する場合の起点時期に移行しました。原告は自分たちの個人情報が自分たちの意志に反して提供されたことすら知らされておらず、それを知ったのは先行訴訟の判決後であるから、3年は経過していないとの主張です。これに対し呉市は、当時交通局が職員向けに発行していた広報誌「市バスネット」に、実地試験を免れるために広電に個人情報を提供した旨が記載されていて、原告はそれを知る立場にあったことから、そこから起算すると、損害賠償請求権が消滅していたと主張しました。
 これが認められ二審の呉市勝訴を受け、原告は上告しました。ところが、第二審と同様の理由で、平成30年1月25日付けで最高裁が受理を却下したため、呉市勝訴で結審したのです。

 続いてこの間、第4次訴訟が提起されました。これは原告11名と直後の32名、更に後の2名とを統合し、45名の原告団となったものです。おそらく第3次訴訟第一審で、原告勝訴を見ての行動だったと推察されます。その後1名が訴えを取り下げ44名になりました。
 その後、第一審呉市勝訴を受けて、勝ち目がないと諦めた8名が訴えを取り下げられ、36名になりました。
 ところが、第3次訴訟での最高裁の上告却下による原告敗訴を見て第4次原告団は、控訴の際、訴訟理由を変更しました。即ち、呉市による民法上の信義誠実義務違反及び個人情報保護義務違反による債務不履行というものです。これなら損害賠償請求権消滅時効期間が10年なので、第3次訴訟での失敗の轍をを踏まないで済むという腹づもりです。
 このことが原告にとって功を奏し、高等裁判所から昨年11月19日に和解勧告がなされたのです。和解金として呉市が原告1名につき10万円を支払うという内容です。この間原告1名は死亡したため、訴訟継承の可否を相続人に確認中で、もう1名は和解を受け入れずに裁判を続行することを望まれました。ということで、34名と和解するかどうかが、昨年12月定例会に議案として提出されたのです。1人10万円ということは、合計340万円の支払いとなり、300万円を超える場合は議会の同意が必要だからです。
 議会審査の結果は、全会一致で可決となりました。これを受け、来たる1月9日に和解協定を締結しますと、成立となる訳です。
 ただ、これで問題が全て終結した訳ではありません。第4次訴訟で和解に同意されなかった1名若しくは2名は裁判が継続しますし、この結果を見た他の旧交通局からの受験者が訴訟を起こさないという保証はないからです。
 実は当時広電を受験した交通局職員は184名です。既に決着した4名とこの度の36名を除く残り140名が、和解金を最低目標として、新たに提訴に踏み切ることは十分考えられます。

 一方、過去の呉市から原告への支払い額は全て予算流用して来ました。即ち第1次訴訟では損害賠償金33万円プラス遅延損害金、第2次訴訟では和解金33万円の3人分で99万円です。この度も予算流用するとの答弁が返って来ました。
 去る12月定例議会で和解金を補正予算に組みこむことは、編成時期が終わっていたので困難であり、来たる3月定例議会では、支払期日に間に合わないというのがその理由です。つまり、1月9日に和解が成立してから概ね1ヶ月以内に支払う必要あるからです。
 そこで私は、議案付託された総合交通対策特別委員会で、流用というのは議会軽視になるので、先に執行した後に後付けで補正予算を提出する専決処分の手法を用いるべきではないかと糺しました。予算専決処分というのは、昨年の西日本豪雨災害に係る復旧予算の時もそうしたように、緊急時に間に合わない時は、事後の予算承認手続きが許されるという地方自治法に基づいた手段です。
 しかもこの度は、和解成立に議決を必要としたのですから尚更ですし、財源は市民の尊い血税であることを忘れてはなりません。補正予算を組まないということは、市民にこの情報に触れる機会を失い、議会の審査に晒されることもなくなりますから、このことに反省や重きを置いていないと言われても仕方ないでしょう。私はこのことをこれから財政部署に訴えて参るつもりです。
 それから、この度の反省点としては、広電から人事記録の提供要請があった時点で、労働組合に実地試験免除のために情報提供してよいか、判断を仰ぐべきだったと考えます。そうすれば、実地試験免除を望む職員はそれに応じた者もいたでしょうし、それが嫌な職員は拒否して、実地試験を甘受する選択肢もあった訳です。
 また職員個々の判断ではなく、労働組合として、人事記録提供を拒否する決定をすれば、呉市や交通局としても、広電の要請には応じられないとの立場で交渉に臨むことになったはずです。後は広電が全員実地試験を行うか否かの判断に委ねる方法が、当時取り得るべき最善の策だったと考えます。

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