街頭演説集

第209回 民有地借地料の見直し

バブル崩壊後の民有地借地料は地価下落を反映せず!

Facebook 2019.11.5

 去る10月28日は209回目の街頭演説。テーマは、民有地借地料の見直しについてです。

 呉市は、公共施設用に民間から借り受けている土地の借地料を平成10年度の最終改定以降、21年ぶりに見直すと発表しました。具体的には、学校17施設、公園8施設、集会所4施設、住宅5施設、防災行政無線用地9箇所、道路・水路用地48箇所を含む合計148件で、地権者は442人に上ります。
 何故見直すかと申しますと、平成初期にバブルがはじけて以降、固定資産税評価額に基づく地価との乖離が顕著になって来ており、即ち地価相場と比較して呉市が高い地代を支払い続けたことが、平成29年の包括外部監査人から指摘されたことによります。
 総借地面積49.5haにおける、現行の借地料は約1億470万円で、固定資産税評価額に基づく新算定基準で試算した額は約6,840万円、その差額は約3,620万円となります。借地料が増額となる地権者は僅か29人、増減なしが3人、残りの410人が減額となる計算です。
 この差を、令和3年度の固定資産評価替えに基づき新借地料を算定し、令和4年度から借地料改定を実施するものです。すると、個人において最大の増額となる方は45万円、逆に最大の減額となる方は550万円にもなります。
 激変緩和策としては、現行借地料を新借地料で除した補正率が1以上2倍未満の人は4年、2以上3倍未満の人は7年、3倍以上の人には10年の経過措置期間を設けます。但し補正率に関係なく、差額が1万円の場合は経過措置期間を設けず、10万円以上の場合は経過措置期間を10年にするということです。
 また、新借地料年額が現行の年額を超える場合や同額となる場合は、経過措置を設けず新借地料を適用します。それは地権者に配慮するためです。
 この新算定基準とは、現行のスライド方式ではなく、借地毎に直近の固定資産税評価額を基に算出するもので、3年ごとに見直して行くこととなります。

 では現行のスライド方式とは、どういう内容でしょうか?
 これは平成4年度に定めた「民有地の借上げに係る借地料算定基準」で、固定資産評価額、即ち直接地価ではなく、消費者物価指数、賃金指数、住居指数の平均で3年毎に変動率を算定する内容です。その上で、変動率がプラスマイナス5%未満であれば借地料を据え置くとしています。
 この算定基準で初の見直し期である平成13年度の変動率は+1.69%、16年度のそれは-0.24%、19年度は+0.65%、22年度は-2.17%、25年度は-4.19%、28年度は-1.3%です。いずれも変動幅が5%未満だったため、見直しすることなく、ずるずると今日に至ったという訳です。近年は地価下落傾向に歯止めがかからないにも関わらず、不動産鑑定士の鑑定評価書では、5%未満の変動幅であれば、見直す必要はないとの意見だったというのです。
 そうは言っても、例え小幅な下落であっとしても、長年に亘る下落傾向に歯止めがかからなければ、トータルで大きな差額になるのは当然です。
 実は、平成4年度より以前は明確な算定基準は定めてなく、地価が向上することに伴って借地料を上げていたということがその後判明しました。バブル期では土地転がしが台頭したように、地価は上昇し続けましたから、地権者は借地料の引き上げを呉市に求め続けて来たことが覗えます。
 ところが平成3年度にバブルがはじけ、地価が一気に下落しました。であれば、それに伴い借地料を引き下げるのが理にかなっている訳ですが、地権者の抵抗に遭い、そのようにはいかなくなりました。そこで、平成4年度に現在の借地料算定基準を定めたという訳です。
 その際、地価の下落に伴って借地料が算定されると地権者に甚だ不利になることから、地価とは直接関係のない指標をである消費者物価指数等を新たな物差しにすること、加えて変動幅を5%未満という線引きを見直し条件に設定したのです。これは、借地料の引き下げを行わずに済ませるという極めて地権者とって有利な、もっと言えば政治的な基準を敢えて設定したと言われても仕方ないでしょう。
 地価の変動と直接関係のないスライド方式とは、よくよく考えればおかしい訳です。私はその当時議員になっていませんでしたから、そのような基準が作られていたことは知る由もありませんでした。現行の算定基準は、バブル崩壊以降、地権者を忖度する制度だったことが、この度明らかになったのです。

 このような不自然な基準を作ったことが、現在に至って矛盾が露呈したことの原因です。私は去る10月21日の呉市議会総務委員会の場で、委員外ながらこの点を暗に指摘しました。
 即ち、官民間と言えども、契約行為は対等の立場ですので、この度の新算定基準にご納得されない方も出て来ることが十分予想されます。それは大幅な減額を余儀なくされる地権者において多々出る可能性を否定できません。もし借地料改定にご同意を得られなかったとしても、そこには学校等の公共施設が立地している訳ですから、契約破棄は極めて考え難い訳です。
 ということは、現行のままの借地料で押し通されますとごね得となり、地権者間で不公平が生じることになります。但し、個々の契約はプライバシーなので、公表することはないにしても、現実十分起こり得ると覚悟しておかねばなりません。
 今月11月から、全地権者に対して丁寧な説明を行いつつ、交渉に入って行くとの答弁がありました。私としては、不公平が生じないよう強く釘を刺したところです。相手側から訴訟を提起される可能性があり、バブル崩壊直後における政治的な配慮がとんでもないことになったことは間違いありません。

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