街頭演説集

第230回 次世代モビリティ社会実験の愚策

次世代モビリティ社会実験に何故安易に血税を使うのか?

Facebook 2020.4.6

 去る3月30日は230回目の街頭演説。テーマとして、次世代モビリティ社会実験について考察して参りたいと思います。
 呉市は交通まちづくりに向け、次世代モビリティ導入を見据えた交通社会実験に、新年度またもや2千万円を計上しました。旧年度は1千万円でしたので、倍増したことになります。

 先ず、昨年度の社会実験で何を行ったか、ここでおさらいをしておきます。
 実験の目玉は、トヨタが開発した燃料電池バス「SORA」の一般公開です。これは排気ガスや二酸化炭素を排出せず、アイドリングでも振動が殆どしない、環境に優しく設計されています。水素ガスタンクを天井に10本積載しており、これを燃料として電気を起こす電気自動車の一種です。災害等の非常時には発電装置にも使えます。
 乗客席は22席。立ち乗りを含めた定員は運転手を除き最大78人です。勿論バリアフリーにも対応。低床で、乗客席以外にも車椅子スペースがあり、床と固定する装具、更には車椅子ごとシートベルトを着用できます。本展示は、トヨタの宣伝に税金を使ったようなものです。
 実はこのバスの価格は1億640万円も致します。低床バスの3千万円とは大きな開きがあります。初導入時には2/3、それ以降は1/2が国交省から補助があるとしても、一体誰が事業主体になるのでしょうか?当然路線バス事業者となる訳です。
 現在呉市内を運行する広島電鉄に対し、年間4億円強の経営支援補助金を呉市は毎年度交付していますから、バズ事業者は「赤字にならないことを呉市が保証してくれるならやります」となるのは目に見えています。広島空港線、いわゆる「エアポートバス」にしても、広電に対し年間約1,100万円を支出していますので、呉市の財政を更に逼迫させるのは必定です。
 ところが、燃料となる水素ステーションが現在呉市内には1箇所しかありません。それも中心部から外れた阿賀マリノポリスの隣接地です。これはトヨタのディーラーが呉市内に顧客を獲得する手段として設置したに過ぎません。つまり、実用化はまだまだ先のことなのです。
 昨年11月にこのSORAに無料で市民に試乗してもらい、旧市内を巡りました。その際中央地区商店街たる「れんがどおり」を通行したのです。市民からは、「現実にれんがどおりを走らせるのか?」との問い合わせがあった程です。これは音がうるさくないことをピーアールすることを含めた世間の注目を集めるパフォーマンスにしか過ぎません。れんがどおりは、午前11時以降は歩行者天国ですので、そのようなことはあり得ない訳です。

 そもそも社会実験とは、何でしょうか?私は、実験した結果実用的で、費用対効果もあると判断しば場合は、即具体化することにあると考えます。
 水素電池バスのように、燃料ステーションが不足しており、開発直後ですから、価格も高額で、しかも費用対効果は殆ど望めません。何故なら市内を走る広電バスの路線の殆どが赤字に転落しているからにほかなりません。珍しいバスだから市民が多く乗車してくれるから採算が取れる訳ではないのです。
 以前呉市営バスの時代に、乗車率向上を目的として「キティちゃん」ロゴを車体にラッピングしたバスを三条宝町二河循環線で走らせたことがありました。この結果赤字幅が膨らんだのです。何故なら著作権料の支払いが交通局にのしかかったからで、乗車人員が目に見えて増加したことはありませんでした。
 また、土日祝日に観光用で旧市内巡りをしていた呉探訪ループバスも令和29年度を以て廃止しました。利用者が少なく赤字が膨らんだからにほかなりません。
 このようなことから、水素電池バスを近々に走らせることはほぼ不可能です。大都市が先ず見本を示して、地方へ波及するのが筋というものでしょう。実はこのようなことは社会実験を行うまでもなく、最初から分かっていたことでした。実現性に乏しいものを社会実験で血税を使うことは言語道断です。実現できない市長のマニフェストを忖度した予算だと言えます。

 次に、もう一つの目玉として、自動運転カートがあります。NTTドコモが開発したモデル製品たる二人乗りの簡易車両「ニューコンセプトカート」を一般公開しました。
 次世代通信である5Gを駆使し、顔認証装置も車体側面に設置しており、5Gスマホで検索、予約、乗車、料金精算できるようになっていて、運転手は無人です。但し、管制センターから通信機で無人コントロールします。自宅付近まで迎えに来たり、商店街を走行することも可能だと言います。制作費は何と1台1億円もかかります。それに二人しか乗れないのではとても採算を取れる話どころではないでしょう。
 車両の四方ボディにはスクリーンが設置されていて、美しい5G画像で情景が映し出されます。観光資源の公園内を案内して巡回する等の利用が考えられていますが、これも大都市圏で先にやるべき代物です。しかも道路交通法を改正しないと、現時点では無人自動車は道路の走行はできません。まだ開発段階の試作品ですので、社会実験とはかけ離れているのは一目瞭然です。

 私は、昨年度の1千万円の予算は執行するべきではなかったという立場です。にも関わらず、今年も倍額予算を組んだのは空いた口が塞がりません。全て血税を水泡に帰すると予想しておきましょう。
 呉市交通局が毎年赤字を抱え、いきいきパスの補助を除き年間約8億円もの血税を投じていたことを市長は直接ご存じありません。モータリゼーションの進展や少子高齢化により、バスの利用ニーズは毎年減少し続ける一途なのです。
 環境に優しい水素電池車や無人の自動運転車は、確かにICTの時代ですから、近未来には普及するでしょう。ただその余波が来るのは、地方都市である呉市ではまだまだ先の話なのです。当然、時期尚早なのは明白です。

 一方、水素電池車を含み、広域間バスを走らせようとしています。平成16年に「バスタ新宿」が、国土交通省の肝いりで全国に先駆けてオープンしました。「バスタ」とはバスターミナルを含む複合商業施設を隣接したJR駅とセットにした広域交通の拠点との位置付けです。
 現在、神戸・三宮駅、品川駅、札幌駅など、大都市が手を挙げています。つまり新宿を全国の起点として、そこから全国地方都市に広域バスでネットワークを作ろうというのです。
 これに広島市をさておいて、何と呉市が手を挙げるというのです。これは市長が議会に何の相談もなく、勝手に進めているのです。広島駅と広島バスセンターは離れているので、バスタ計画にふさわしくないため、呉駅をバスタにしようというのです。
 私はこの途方もない計画に呉市が手を挙げることによって、呉駅前広場を国道31号線の一画と位置付け、国直轄事業に組み入れようとしていると睨んでいます。旧そごう再開発の複合ビルの1階東側部分も公共施設たるバスターミナルとして活用しようとしているのです。
 では何故これが非現実的な計画かと言いますと、広域間バスを運行するのは採算が合わず、それを強引にやろうとすれば、またまた巨額な血税を投入せざるを得ないからです。
 実は、呉駅から大阪へ向け出発する広域間バスを、中国ジェイアールバスが運行しておりました。先ず平成16年度に、呉エクスプレス大阪号がユニバーサル・スタジオ・ジャパン行きとして運行を開始しました。続いて平成18年度には、呉ドリーム大阪号がUSJ行きと神戸・三宮行きとをスタートしたのです。ところが、前者は平成26年度に運行廃止、後者は平成29年度に運行を休止したまま、再開の目処が立っておりません。もし黒字が続いていたのなら、民間企業ですから継続しているはずです。また系列会社のJR西日本の乗客を奪っていたこともあるでしょう。
 もし中国ジェイアールバスに対し、呉市が市民の利便性を図るため、運行を継続して欲しいと要望するなら、市内路線バスの広電同様、赤字補填の保証協定を交わすことになるのは必定です。

 結局のところ、どこを向いても市民の血税を踏み躙る結果となるのは、素人目にも明かです。にも関わらず、何故このような実現性の乏しい社会実験や新規広域ルートを誘致しようとしているのか、私には到底理解できません。これらは全て無駄な予算と考えます。
 よって、私一人がこの主張を述べて予算に反対した次第です。

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