Facebook 2020.9.1
呉市は去る8月27日の呉市議会産業建設委員会で、旧そごう建て替えに係る公募を1年間遅らせる旨を発表しました。今年4月に策定された呉駅周辺地域総合開発計画の1期計画では、今年度半ばに開発業者を公募し、その提案を基に今年度末に事業計画を策定、令和3年度実施設計、4年度着工というスケジュールを描いていたのです。これで少なくとも着工は令和5年度以降になりました。
公募を遅らせる理由は次の如くです。呉市は開発業者公募の前段として、企業の意向調査に係る公募をし、20者が呉市との対面式相談に応じました。この内数者が参入に意欲を示していましたが、日本製鉄(株)の撤退表明に加え、新型コロナウイルス感染症拡大が重なり、急速に企業の設備投資意欲が減退したためです。つまり現段階で公募しても、応募企業が見込まれないことになります。
1年程度延期するといっても、来年度にコロナの終息が見通せなければ、或いは第二、第三波の到来となりますと、再延長も視野に入れざるを得なくなります。
一方呉市は、総合開発計画1期計画のもう一つの目玉である呉駅前広場整備を、隣接する国道31号の一画に組み込むとして、国土交通省のバスタプロジェクトに応募し、国直轄事業で広場整備を行うとしています。これは2階分のデッキ広場の整備を含み、国が2/3、県が1/3支出することで、イニシャルコストとしては呉市の負担はないとしています。しかしながら、エレベーターを新たなハードを整備することで、ランニングコストの重圧がボディブローの如く効いて来るでしょう。その負担は勿論市民の血税となります。
実際、呉駅周辺地域総合開発懇談会には、オブザーバーとして国交省役人も参加しておりました。
こちらの整備は公共事業のため、景気に左右されることなく、着々と進行させたい訳です。そこでこの度、「国道31号等呉駅交通ターミナル整備事業計画検討会」を起ち上げ、事務局を国交省広島国道事務所と呉市呉駅周辺事業推進室が担うことにしたのです。
ところが、旧そごう建物の1階と2階の一部の一定面積を呉駅交通ターミナルとして活用する計画になっており、旧そごうの開発が進まないと、ターミナル整備そのものが進捗しないことになります。何故なら、そごう跡地の権利者は3者となっているからです。
元々平成25年1月末をもってそごう呉店が閉店した時点では、建物の地上権は9者、底地は3者の地権者がおりました。
具体的に建物の地上権の面積案分は、(株)そごう・西武が約77%、呉市が約19%、その他7者が約4%を所有していました。底地は、呉市が約79%、そごう・西武が約18%、日本通運(株)が約3%となっていたのです。即ちこの9者で再開発を民間主導で行うのが前市長の描いていた構想でした。
但し、当時は売却価格よりも、民間提案が呉市の意向に沿うことを優先する考えだったため、小規模地上権者が難色を示し、これを前に進めるため、市長選が近づいた平成29年9月に前市長が3者に集約すると公表したのです。
その後新市長体制になって、最後の1権利者の手続きが難航し、それが決着したのは、令和元年12月のことでした。具体的には、6者の個人地上権を全てそごう・西武が買い取り、この結果、呉市、そごう・西武、(株)日本通運の3者に権利集約したのです。即ちそごう・西武が約77%から約80%に増えた訳です。
この時期に丁度コロナ禍が始まった訳ですから、経済停滞の兆候は既にあった訳です。
この度コロナの終息が全く見えないまま、このままではそごう・西武や日本通運の権利は塩漬けになる可能性が出て来ました。加えて、固定資産税の負担も引き続き被さって参ります。しかも、そごう跡地の処分が決まらないままでは、国交省の呉駅交通ターミナルも進捗できません。
そこで呉市はついに禁断のウルトラCを出しました。それが権利の再集約です。つまり、現在3者に集約している建物地上権と底地の地権を、一旦呉市に集約するのです。呉市として、そのための購入金額は約4億4千万円になります。
その計算式はこうです。土地の更地評価額が約14億円、それに解体費用約8億5千万円を控除すると約5億5千万円となります。これは、取り壊し最有効と呼ばれる不動産取引の考え方です。それに地上権がありますから、その権利割合は、地上権8割に対し、底地は2割です。よって、地上権は約4億4千万円、底地価格は約1億1千万となります。
また、地上権においては、単なる面積に比例して価値が決まるのではなく、高い階の方が便利が悪いためその分評価額が減価されます。そうなりますと、呉市の地上権約3千万円に底地評価が約8千万円で、合計約1億1千万円です。そごう・西武は地上権が約4億円、底地価格が約3千億円で、合計約4億3千万円、日本通運は地上権約6百万円、底地価格約4百万円で、合計約1千万円となります。
このそごう・西武と日本通運の権利価格の合計約4億4千万円を、呉市が買い取るというのです。これは来る呉市議会9月定例会に補正予算として上程される予定です。
こうして呉市が地上権、底地全ての所有者となれば、国交省が進める呉駅交通ターミナルをそごう跡地を活用して自由に進めることができるという訳です。但し、この根幹理由は、議会委員会では巧妙に伏せられました。そこで私としては、予算特別委員会で追求して参ります。
この施策転換は、呉市が買い取った権利が売れないという大きなリスクがあるのです。コロナ禍による経済の見通しが暗転する中、これを再処分できなければ、呉市が負の遺産を抱え込むことになります。
これは福山市の教訓を想い起こす必要があるでしょう。
そごう経営破綻のあおりを受け、福山そごうは平成12年にいち早く閉店しました。それを福山市が底地の寄附を受け、建物を26億円で買い取り、7億円かけて大規模改修したのです。それを(株)天満屋の子会社である丸田産業(株)からの賃借料でペイしようとし、同社が複合商業施設「福山ロッツ」と再テナント契約を事業用10年定期借地で締結しましたが、10年経った平成25年には撤退したのです。
その後福山ロッツ跡の一部を大和情報サービス(株)が「リム・ふくやま」を開業、残りは広島県や福山市の公共施設を入居させました。そのリムも先月8月30日を以て7年間の短い歴史に幕を降ろし、福山市は更に一部を改修し、テナント先を公募、公共施設の分散移転を余儀なくされています。
結局、福山市が福山そごうの建物をを買い取ったことで、多大な税金を投資し、特別会計として未だ回収仕切れていない事実を知る必要があります。呉市は一旦買い取り、再度公募で売却すると言っていますが、アベノミクスの失敗が明らかになり、現在の経済情勢を鑑みますと、売却できない場合は、福山市の二の舞になる可能性を秘めているのです。
呉市として、被害を最小限に抑えるためにも、そごう跡地・建物を購入すべきではありません。
呉駅南地区にしても区画整理事業を進める際、呉市はJR西日本と国鉄精算事業団から、土地、即ち2街区と3街区の一部を政策誘導するため一旦購入しました。しかし、結局売却に失敗し、各々20年間の事業用定期借地に止まった経緯があるのです。
この度は、市長マニフェストである、そごう跡地と呉駅前広場を一体的に政策的に強引に整備しようとすることが、このような愚策に繋がっているとみます。この経済の転換点を機に、呉駅前広場の整備は、旧そごう底地に拡げるのを断念し、且つ投資効果が見込めない2階部分へのデッキ広場も撤回する勇気を持って欲しいと思います。
福山駅前では、北側の市有地と南側のJR西日本用地を交換し、北側にJRがホテルやマンションを建設する計画も、コロナ禍でJRが断念し頓挫しました。住民の反対運動も功を奏した格好です。
呉市民もこの官主導の大型開発にストップをかけ、本来の民主導に導くべく、運動を起こして欲しいものです。