Facebook 2020.10.22
先ず、平成25年11月頃から、下関税務署において、自治会等公共的団体に対し、法人課税を徹底する荒療治が行われました。法人登記がなされていない自治会であっても、収益事業を行った場合、法人税や法人県・市民税の申告義務が生じます。これまで全国的に税務署は自治会等に対し査察を行って来ませんでしたが、安倍元首相のお膝元でいわゆる自治会狩りが行われていたとは驚きです。
具体的には、自治会館を運営するに当たり、使用料規程に基づき利用者から使用料を徴収している自治会が殆どですが、これは「席貸業」と呼ばれるれっきとした収益事業に該当します。また、自治会所有の空き地を活用し、月極駐車場やその都度料金を徴収する場合は「駐車場業」となります。更に、自治会館内等に設置した自治会所有のコピー機や印刷機の使用料を徴収した場合は「物品貸付業」、保険の加入勧誘は「代理業」若しくは「斡旋業」となります。特に下関の場合は、市が自治会への補助金を削減したため、それを補うべく、各自治会が自動販売機を設置し、その収益に頼りました。これが「物品販売業」となった訳です。
因みにこれらは、「収益事業の範囲」として、法人税法施行令第5条に34種類が明記されているのです。
呉市では、まだ自治会等には税務署の手が伸びていませんが、PTAには10数年前に、保険勧誘業務に対し課税されました。女性会も同様の業務を行っていましたが、現在は業務を廃止しているようです。
では、自治会館やコピー機等、駐車場を有していない自治会や、自販機を設置していない自治会では、法人課税の対象にならないと思われますが、実はそうではありません。
呉市では、市政だよりや呉市議会だよりを自治会に全戸配布をお願いしています。その対価として、配布手数料が自治会に支払われます。具体的には、単価300円に加入世帯数を掛け、均等割5千円を加算したものです。これは「請負業」に当たります。
更に呉市では、街区公園の清掃等業務において、公園管理人に対し、月額2,343円を支給しています。これは個人に対してであっても源泉徴収の対象外であり、個人も20万円以下の収入ですので、この部分は税務申告は免除されています。
ところが、公園管理人を定めても、自治会員全員で定期的に清掃するため、手数料を自治会口座に振り込むよう手続きしている自治会が多いのです。この場合は自治会に手数料が入りますので、やはり「請負業」に該当することになります。
このような事例は呉市に限ったことではなく、恐らく全国的に同様の手法が採用されていると推察致します。
但し、下関税務署では自治会等によるバザー収益を「物品販売業」として法人税対象としたようですが、バザーは単発事業であって、継続的に実施する事業ではないため、収益事業とはみなされないはずです。
さて、呉市の場合はこれらのほかに、老人集会所の指定管理者である地区社会福祉協議会は、指定管理そのものが「請負業」に該当しますし、使用料を規程に基づき徴収しているところが殆どですので、これは「席貸業」に当たる訳です。
加えて、条例未設置のコミュニティ施設は、地元の自治会等に無償貸与しており、廃校跡を活用した旧校舎や体育館も同様の所が散見されます。これらの内、使用料を徴収して、管理運営をしているところが殆どですが、これも「席貸業」となります。
更には、隣保館(人権コミュニティ施設)の一部を廃止して、地元の地縁団体に無償譲渡した所も複数箇所あります。この館を維持管理するために席貸業を行っているところもあろうかと推察しています。
ということは、これらの実態を、法人税法、地方税法に基づき厳格に適用し課税していては、地域協働やコミュニティが崩壊する危機に直面することになります。かと言って、これまで通り、この様な状態を自治体が放置していれば、いずれは下関方式が全国に飛び火し、大混乱を招く恐れが多分にあるのです。
一方、法人税を申告した場合、単年度赤字若しくは収支がトントンであれば、課税されることはありません。法人税には、黒字分に対して税率が課せられるからです。ここでいう収支トントンに係るのりしろは8%程度です。つまり1年の内1ヶ月分程度の黒字であれば、収支トントンとみなし、課税されません。
ところが、赤字若しくは収支トントンの自治会が正直に税務署に申告すると、その決算情報が、最寄りの県と市に提供されます。そうなりますと、法人県民税、法人市民税が賦課されることになるのです。これら法人住民税は、例え赤字であっても均等割が賦課されます。即ち法人県民税のそれは年額2万円、法人市民税の場合は年額5万円です。これに広島県の場合は県独自に創設した「ひろしまの森づくり県民税」が年額千円賦課されます。これは各都道府県が同様の目的税を課しているようです。
ということは、赤字であっても年間7万1千円が徴収されることになります。更に黒字であれば、その黒字分に法人税割として税率がかけられ、加算される訳です。公共的団体が公共目的で事業を展開したとしても、そして赤字だったとしても、法人住民税均等割が課せられるのが税法の仕組みなのです。
実は、この均等割というのは、収益事業を行わなくても、且つ未法人であっても、課せられるのが地方税法でした。平成10年3月に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立した際、収益事業を行わない公共的団体がNPO法人格を取得したら、却って課税を免れないことが判明し、広島県は、収益事業を行わないNPOと認可地縁団体に対しで法人県民税均等割を要綱により免除することにしました。
これを受け、県と足並みを揃え、呉市もNPOに止まらず市民公益活動団体(ボランティア登録団体)にも同様に法人市民税均等割を免除すべきと、私が当局に進言したことがあります。これが採用されて、呉市も呉市税条例の要綱を改正して、均等割免除が実現した経緯があるのです。
このような事例を踏まえ、国が地方税法を平成20年に改正し、NPOや公共的団体が収益事業を行わないことを条件に、法人住民税均等割を賦課しないようになったのです。つまり、法律が後追いとなって改正されました。
そこで私は、地方税法第61条と第323条の住民税の減免規程を根拠に、呉市税条例を改正し、公共的団体が公共的活動を行う場合に限り、税を免除若しくは減免するよう平成27年3月定例会の予算総体質問で提唱しました。
具体的には、先ず均等割を免除すれば、収支トントン以下の自治会等は法人税に止まらず、法人市民税均等割も賦課されません。更には、収益を上げても法人所得に係る法人税割も半額にするとか、免除するとかの方法が考えられます。
但し、法人市民税均等割のみが免除されても不完全で、同時に最低でも法人県民税均等割も免除されなければ効果が半減します。これは県税条例の改正が必要不可欠です。
この質疑に先立つ平成26年1月に私は、広島県の総務局長や税務課長へ陳情に乗り込みました。この時の回答は、「呉市が法人市民税の均等割免除をする意向を示されるなら、当局は検討の著に就く」というものでした。それを受けた1年後の不肖による予算総体質問での提唱に対し、当局は「各課と今後研究する」と答弁しています。この「研究する」という表現は、質問議員のメンツを立て忖度する政界の常套手段で、「検討しない」こととほぼ同義なのです。
私は下関の実例を基に当局に対し、再度県と共同歩調を取る税条例改正を要請して参る所存です。これこそが、地域協働を存続させる妙案の中核をなすものと確信しています。
広島県と呉市が各々税条例を改正すれば、県内各市町も追随するでしょうし、他の都道府県にも波及するはずです。つまり、広島県と呉市が全国の手本となるのです。そうすれば、過去もそうであったように、国が地方税法や法人税法の改正を後追いで行うことも夢ではなくなるのです。要は地方から声を上げ、それが全国に波及すれば、国に声が届くという訳です。