Facebook 2020.12.24
12月16日、市長退職手当特例条例案が、私一人の反対で採択されました。一見、税金からの支出を削減できるので、市民の受けはよいでしょう。
市長は4年の任期毎に退職金を受け取るシステムとなっており、その額は2,380万円です。その満額から3割強を減じて、約1,600万円とするとしております。即ち3割部分の714万円に加え、検討に要した諮問機関の経費70万年を差し引いたものです。
当初は、この度の様に単純に減額するものではなく、市民評価を経た後、その結果に基づき減額する案でした。それは3年前の市長選挙の際、現市長がマニフェストに掲げたのがその趣旨だったからです。
このため市長は、有識者4名からなる呉市長退職金市民評価制度検討懇話会を今年7月20日に起ち上げ、4回の議論を経て提出された意見書に沿って制度を設計しました。その骨子は次の如くです。
先ず、有権者を無作為抽出し、合意を得られた市民を評価者として384名選出します。この数は統計学上、誤差を最小限に止める場合の最小数ということのようです。それを市長選挙後に一堂に集め、市長自らが作成した業績説明資料に基づきプレゼンテーションを行った上で、評価者に3段階で総合評価してもらい、その全員の平均点を割り出して、それを退職金の3割分を流動化した上で、評価点数によって減額しようとするものです。
具体的には、A評定を30点、B評定を20点、C評定を10点と位置付けます。その上で評価者全員の平均点点を割り出し、20点以上だったら退職金流動化部分の満額、即ち100%を支給します。19点以上20点未満の場合は75%、18点以上19点の場合は50%、17点以上18点未満の場合は25%支給します。17点未満は0%となります。
尚、評価者への報酬はなく、交通費程度の費用弁償のみが支給されます。
因みに市長も自己評価でランク評定しますが、この場合は施策項目毎にします。市長の自己評価を参考に、評価者は総合評価を下すということです。ということは、事前の市長の自己評価説明に影響されることもあるでしょう。
ここで奇妙なのは、平均が平凡評価のB評定であったとしても、満額支給となることです。これは市長の意に反し、懇話会が減額をセーブする制度設計をしたことによります。
そもそも市民評価を実現したとしても、投票行為をしていない市民が評価すること自体ナンセンスです。前回市長選での投票率は僅か52.41%でした。つまり約半数の有権者が投票権を放棄しており、その市民が評価をすることそのものに疑問が残ります。真の市民評価とは、選挙で洗礼を受けることなのです。
次に、市長が再選後に市民評価を依頼したらご祝儀評価があるでしょうし、落選後に市民評価すれば低評価となる訳で、選挙結果に左右される本制度そのものが大いに矛盾をはらんでいると言えましょう。
ここで問題になるのは、現市長に特化した条例内容であって、普遍性がないということです。さすがに条例文に、「対象は新原市長に限る」とは書けません。そこで、「条例の施行の日に呉市長の職にあるる者」と、新原市長に限定する巧みな文章表現を使った訳です。つまり、来年の市長選で万一新人が当選したら、本条例は自動的に失効し、新人市長には適用されません。
もしこの文言を省けば、その新人市長にも有効となり、その際退職金を元の金額に戻そうとする場合、本特例条例廃止議案を提案し、議会が可決する必要が出て来ます。その保証はありませんので、この文言を挿入する必要があったと言えます。
また、当然市民は新人市長と比較します。「前の市長は退職金を3割減じて市民の血税を節約されたが、新しい市長はやっぱり人の子だ」と言われるのを覚悟する必要があります。それで2期目の市長選への悪影響を避け、自身にも適用可能にするために特例条例を改正せざる得ません。そうなりますと、モチベーションが下がることが懸念されます。
来年の市長選では、現職が退職金3割減の主張を当然されますので、それが対抗馬に対して訴える強みになるのは明かです。懇話会の提言では、市長選の争点化を回避する意味で、できるだけ早い時期の条例制定が望ましいとされたため、今回の提案に至ったのですが、その時期はいつであってもそう大きく変わらないと言えましょう。
実際選挙戦になれば、本条例が、対抗する候補者にとっては大きなプレッシャーになるのは必定です。もし有権者から、「現職市長は退職金を自ら3割削減されますが、あなたが当選されたらどうしますか?」と問われたら、回答は困難を極めます。
一方業績説明資料は、市長が直接プレゼンテーションをするので、自身で作成するとの答弁がありました。
もし市職員が原案を作成せず、一から全て作成するのは実際困難を極めます。しかも選挙戦やその後始末で超多忙な時期に、資料作成のデスクワークを一人でこなせるとは到底考えられません。業績結果データを取り寄せたり、分析も必要です。結局は、原案を市職員の各部署が総動員して作成するようになり、多大な人役が投じられることになる懸念がある訳です。
最後に市長自らが手直しはするとしても、原案作成は市職員の手を煩わせると予想しておきます。もしそうなれば、その人役にかかった目に見えない人件費分も退職金から差し引くべきでしょう。
また、万一落選された場合は、意気消沈して自ら資料作成をする意欲も湧かないばかりか、市職員に原案を作成させることそのものの意義が薄れてしまいます。
ところが、この度12月8日の記者会見で市長は、この市民評価制度を断念する発表しました。懇話会の意見が反映されないばかりか、前日7日に招集された12月定例会では議案提出せず、定例会最終1日前の12月15日に緊急提案するという手法を採りました。
これでは、議員には十分精査する時間が与えられず、同日議案付託で開催された総務委員会でも、大した質疑もなく、スピード審査、採決となってしまいました。
議会に提案する前に、記者発表した手法も議会軽視の表れです。当然議案提案が先で、それを受けて、報道されるのが常道だからです。そうでないと、新聞でその内容を市民に知らしめますと、市民はそれがあたかも決定事項だと錯覚するからです。実際は議会が最終決定する権限を与えられているのですが、議会の結論を誘導する形となっており、問題でした。
さて、市民評価制度を断念した理由です。評価者へのプレゼンテーションは、来年11月を予定していますが、新型コロナウイルスの猛威が終息していない可能性があり、一堂に集めることで万一感染者が出た場合の責任を取れないというのです。
かと言ってリモート会議では、臨場感がなく、市長の思いが十分伝わり切らないといいます。尤もスマホをお持ちでない方や、お持ちであってもオンライン操作ができない方もおられますから、その手法は現実的ではありません。
また、市民評価制度は断念しても、市長自らが業績説明資料を作成することに変わりはないと、記者会見で表明されました。これは退職金減額に係る評価は市長だけでも行わないと、3年前の市長選マニフェストに反すると判断したものと推察しています。
私は議案付託された総務委員会で、「もし来年の選挙前に新型コロナが終息したら、市民評価制度を復活させる条例改正を行うのか」と質しました。それに対しては、「選挙戦への影響を抑制するためこの時期の条例案提出となったので、それはない」との答弁が帰って来ました。加えて、「来年の選挙に再選された場合、3期目を目指す選挙の前に市民評価制度を導入する条令改正を行うのか」に対しては、「市長でないと答弁できない」ということでした。
委員会質疑を踏まえ私は、本会議で本条例案に対し、反対討論を致しました。
本条例案は一見すると市民受けはよいでしょうが、様々な矛盾をはらんでいるのです。それこそ選挙パフォーマンスと言われても仕方ありません。
市長は我々議員と違って常勤特別職で行政の最高責任者であり、市政全般を全て把握し、最も激務をこなしておられる訳ですから、任期満了時には堂々と本来の退職金を受け取らるべきと考えます。その方がモチベーションが上がり、市民のためにもなるのです。