街頭演説集

第100回 安芸灘大橋通行料無料化の虚構

「安芸灘大橋通行料無料化」マニフェストの虚構と真相

Facebook 2017.7.14

 去る7月10日は、記念すべき100回目の街頭演説。CDプレーヤーと接続し、テーマである「炎のランナー」をバックミュージックに復活させ、国会議員に先を譲っての熱弁33分間でした。
 テーマは、秋の呉市長選で4名の出馬表明者の内3名がマニフェストに採り上げている、安芸灘大橋通行料の無料化についてです。
 安芸灘大橋は、広島県が全額出捐した広島県道路公社による県道建設事業であるため、呉市は平成18年度より、県に対して通行料の値下げを要望し続けて参りました。
 ここで、本橋建設の経緯について述べてみます。これは、平成20年度に無料開通した豊島大橋と同様、県直轄事業として、公社に頼らない手法を採用することも選択肢としてありました。この場合は、国庫補助を受けて県が直接事業主体となり、財源は県税となりますので、供用開始時より通行料が無料となる訳です。その代わり、毎年度小出しに予算化されますので、供用開始時期が大幅に遅れることになります。
 当時、下蒲刈町が県に対し、県直轄事業では供用がかなり遅れるため、公社事業を切望された経緯があります。この場合の財源は、受益者負担原則の下、通行料となります。即ち、県が保証人となって、公社が起債(借金)し、それを30年償還するのです。その結果、平成4年度に事業着手し、12年1月11日に供用開始となり、下蒲刈町として、平成15年度末の呉市への編入合併前に事業の完成を見ることができたのです。
 橋の取り付け道路を含めた総事業費は500億円。その内110億円が公社による有料道路事業となっています。通行料が当初普通車700円、軽自動車550円と割高なのは、予想される通行量から30年償還を見込み計算した結果なのです。
 昭和36年12月に開通した音戸大橋が同49年と、僅か13年で無料化になったのは、予想以上に通行量が多く、30年後を待たずに債務を償還できたことによります。安芸灘大橋の場合、毎年平均3億7千万円ずつ通行料金収入があれば、予定通り平成42年から自動的に無料となる訳です。
 但し、生活道路に位置付けられながら、島民人口から鑑みて、通行料の割高感を抑制するため県は、回数券割引率を他の公社事業道路よりも高く設定したことを知って欲しいのです。例えば平成24年度末に債務償還を完了し無料化となった尾道大橋、平成32年2月に無料化予定の広島熊野道路は、100回券で共に2割の割引です。それに対し安芸灘大橋は3割引に設定されていたのです。具体的には、安芸灘大橋における普通車の100回券は、本来なら7万円のところ、4万9千円に設定されたのです。
 それに加え、呉市へ編入合併する前の下蒲刈町と蒲刈町は、各々独自施策として、島民による回数券購入に上乗せ助成していました。下蒲刈町は、県からまとめて回数券を購入販売する際の手数料を基金として積み立て、その穴埋め財源に活用。蒲刈町は一般会計(税金)を充てていたのです。
 その後両町が呉市に編入されると、平成21年度からは割引率を統一化し、同時期に編入合併した豊浜町、豊町両町にもその恩恵を拡大したのです。これは島民のみならず、同安芸灘4町へ通勤や通学する者も対象でした。具体的には、100回券を購入すれば、公社の割引で4万9千円のところ、更に2,580円値引き、46,430円となっていました。
 一方、呉市の要望を受けて、ついに県が重い腰を上げたのです。即ち平成24年1月から25年度末までの2年3ヶ月間に亘って、社会実験を行いました。これは、100回券購入に対し、割引率を30%から57.1%まで大幅に拡大するものです。その結果、普通車であれば、当時片道700円たったものが、僅か300円でよい計算になります。
 ところが、回数券を購入されるのは、同橋を生活道路として活用する島民であって、本土住民や観光客には恩恵がありません。そこで呉市においても、県に対応した施策を講じるよう私が要請した結果、平成24年度から復路通行料無料化が実現したのです。これは土日祝日に限り、安芸灘4島内の登録店で千円以上を消費した場合、その領収証と引き替えに本土への復路通行券を指定営業所で受け取れるものです。これを26年度から平日にも拡大しました。
 ところで、広島県は社会実験を26年度末で終了し、その割引率をそのまま継続する施策に打って出ました。この実験期間は、大幅な値下げの結果、料金収入が3億円程度に落ち込んだようですが、それを恒常化させることは、島民に対し大きな便宜を図ったことになります。それでも30年償還できる様に、その時点で償還計画を大幅に見直したらしいのです。
 過去の呉市議会答弁によると、平成25年度末時点での残債が65億円、27年度末時点での残債が43億円となっていました。通行料金収入が激減する中、この2年間で22億円、年平均11億円の債務が減っていたのです。大幅な通行料値下げの結果、料金収入は年間3億円そこそこのはずです。しかも、30年償還計画は変更できません。
 実は、ここで大きなトリックが隠されていました。110億円の債務の内、50%は国の無利子貸付、35%は県出資金、残り15%が政府系金融機関からの融資です。ということは利息は僅かだと推察されます。
 そして、通行料金収入はこの110億円の返済だけではなく、公社の運営資金にも充てられます。公社職員の人件費や料金所業務委託料、そして橋の修繕費を含む維持管理費がそれです。つまり、110億円より余計にかかるのです。この維持管理費は台風災害とかにも備えねばなりませんから、引き当てています。よってこの引当金の一部を償還財源に回すことで、2年間で22億円も一気に返済し、平成42年から予定通り無料化できるよう計算し直した訳です。
 このまま42年から無料化し、道路公社も解散したとして、引当金は県の一般財源に入れるか基金を引き継ぐかして、後々の橋の補修費用に充てるのが道理です。

 ということは、もし無料化を早めるとするなら、この引当金を更に償還財源に充てることが理論上考えられます。しかし、それでは尾道大橋や広島熊野道路と極めて不公平になります。また、出資金の償還を県が放棄すれば、これは県民の血税ですので、安芸灘大橋を利用しない、県北や県東部の県民が黙っていないでしょう。
 つまり、県としてここまで努力して通行料を安価にし、修繕引当金も一部取り崩したのであるから、これ以上は困難だということなのです。それでいて、予定通り平成42年に無料化となるのです。
 それをこの度3人の市長を目指される方が、安芸灘大橋通行料無料化をマニフェストに掲げるのは、市長権限で、県道路公社の債務を呉市民の血税で肩代わりしようということに他なりません。県の橋に対し、呉市が税金を投じるというのは、もっと理屈が合いません。しかもこの3名の中には現職がおられることを忘れてはなりません。と申しますのも、過去の呉市議会一般質問での無料化要望に対し、呉市当局は、「粘り強く県に要望し、利用促進策を検討していくことで、早期償還を目指していきたい」旨の答弁を繰り返して来たからです。この答弁はだいたい部長ですが、それは市長と同義です。答弁を調整しての統一見解に基づく大変重い内容だからです。
 その答弁とマニフェストが完全に矛盾しています。県も驚いているようです。その心は、「呉市が県公社の借金を肩代わりしてくれるのか?」というものです。結局新人は、この様な情報が入らないため、有権者受けのマニフェストを掲げるのが常です。ところが現職は、事情をよく知り尽くしているので、そうはいきません。にも関わらず他者と同じマニフェストを掲げたのは、本橋無料化が安芸灘島民の悲願だからです。このマニフェストを掲げないと、他の出馬予定者に安芸灘4町の票を奪われてしまうという、危機感の表れであることは明白です。当選すれば、後は何とでもなるというのでしょう。
 マニフェストは自身の政策、即ち商品を売り込む際の宣伝文句です。優秀なセールスマンは、販売商品の欠陥は絶対口にしません。そういう意味から、消費者である有権者も、その虚構を見抜く目が必要なのではないでしょうか?

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